ようやく穴虫峠に差し掛かった頃、行く手にまばゆい光が見えてきました。 近づいてみると、そこには透きとおるような色の白い美しい少女が立っています。
こんな山の中に…と、怪しく思いましたがすがるような思いで道を尋ねてみました。
「大和へはこの道を行けばいいのですか?」すると少女は静かに首を振りました。
「この道を通ってはいけません。引き返して竹内峠を回ってお行きなさい。」
せっかくここまで登ってきたのに、と迷いましたが少女の様子に何か不思議なものを感じました。疲れ切った身体でもと来た道を歩き出しました。
この時、穴虫峠には皇子の命を狙う大勢の兵が武器を持って待ち伏せていたのです。
少女の言葉によってこの危機を逃れた皇子は竹内峠を抜けて無事大和へ辿り着くことができ、のちに桜井市あたりにあった磐余の稚桜の宮で即位されました。
ことのきのことを皇太子は、
大坂に遇ふや少女を路問へば
直には告らず当摩径を告る
(大坂で遇った少女に大和への道をたずねると、大和へまっすぐに行く道ではなく、まわり道の当麻道を教えてくれたぞ)
と歌によまれました。 |